強姦救援センター・沖縄 Reicoニュース 2002年4月(6号)より

安心して訴えられる社会をめざして −裁判の評価と残された課題

高里鈴代

 

T 裁判の判決とその経緯;被害者の声が聞かれた判決

 去年6月29日の未明に北谷町・美浜の駐車場で起こった強姦事件は、最後まで「合意」を主張する加害者の米兵に対して、「泣き叫んで拒否の意思を示している被害者への行為は、強姦以外のなにものでもない。」と被害者の訴えを全面的に認め、「有罪・2年8ケ月の実刑判決」が3月28日に下された。被告は上告を断念し、有罪が確定した。

 しかし、事件の発生から判決までの9ケ月間、被害者への一部週刊誌やアメリカの新聞、雑誌による誹謗中傷に加え、公判における侮辱的な尋問は、性暴力被害を訴えることがいかに困難かを改めて示す結果となった。

 日本の刑法は概して量刑が軽いと言われるが、検察側の3年求刑には失望させられた。それがさらに判決では、前科がない、犯行時間が短い、最初に強姦の意図がなかった、被告の勤務状態は良好であるなどが考慮され、さらに4ケ月減刑となった。被害者の長期化する身心の痛みに対して、あまりにも量刑は軽すぎる。

 判決には不満も残るが、他方、被害者のプライバシー保護の為に、本人証言を法廷の別室で行えるビデオリンク・システムの採用、被害者の匿名性を保持すること、そして、信頼できる付き添いの採用な ど、従来の法廷にはなかった被害者保護が一歩進んだことは評価したい。これは去年の12月の刑法改正によるものだが、今回の裁判での採用を求めて弁護士、REICO、女性団体からの働きかけが功を奏 したといえる。

 さて、「合意」を最後まで主張する被告側弁護士の尋問はセカンドレイプであり、女性差別に満ちていた。弁護側は「合意」の根拠として、米兵との関係を安易に求める女性たちの存在を強調し、女性たちをアメ女、コク女と侮辱的な呼称で執拗に取り上げ、被害女性もそのカテゴリーに属する女性だと印象づける陳述、尋問であった。すなわち、女性たちは危険も承知で米兵に近づき黙示的にセックスを望 んでいる。それは被害者の下着の選択からも明らかであり、女性の側にこそ落ち度、責任があるという論理である。アメ女、コク女のふしだらさを強調することで、一部特殊な女性たちであるように印象づ け、女性全体から切り離すという手法は、女性全体に対する強い差別意識に根ざしている。これはしかし裁判官によって、事件自体とは全く関係がないこととして明確に一線を引かれた。

 それにしても、米国などでは、被害者の過去の性的関係は、事件と無関係であるから尋問できないと いう法律・レイプシールド法があるが、今回はその逆を行く尋問で、法廷が験然となるほどであった。

U 一部メディアの悪意に満ちた報道と、被害者の人権を尊重する記者たちの活躍

 事実を捻じ曲げた記事が一部週刊誌や米国紙に掲載されたのは、明らかな被害者バッシングであった。
@被害者と被告は、以前付き合っていた関係(事実は、事件まで一面識もない。) Aはしたない女と思われるのが嫌だから電話をした振りをした、(緊張と動転して中で本人が199番一119番にかけた)B友人がかけなければ本人は警察に通報するつもりはなかった、(本人が頼んで友人にかけてもらった。) などがそれであるが、「合意」であるのに、恥だから隠そうとしている、と訴えた者を見せしめ的に裁 くのである。

 その同じ立場で、「合意」を支持する声。身柄引渡し前日、日本の司法制度について米軍に説明するために基地に招かれた男性弁護士は、「身長182cm。細身だがよく鍛えられた筋肉質の体。柔和で終始穏やかな態度を崩さなかった。合意の上だと繰り返す言葉には、動揺した感じが全くなく、本当は無実 なのかと思ったほど」(週刊新潮)と好意的に語る。また別の男性は、取材のあり方に恐怖さえ覚えて 親族が住む基地内に滞在したことを「一種の敵前逃亡に近い弱腰な行為」(週刊新潮)と批判している。

 今回は、披害者本人が沖縄弁護士会の人権擦護委員会へ、悪質な取材活動、記事の掲載に対して人権侵害の申し入れをし、弁護士会の適切な対応によって一定の歯止めをかけることが出来た。とはいえ、被害者は事件に加え、さらにその後の中傷や人権侵害にも抵抗しなければならなかった。

V 米兵の女性に対する暴力ー女性への蔑視感情は根深い

 裁判の過程で浮かび上がってきた問題は、被告も含め、沖縄に駐留する米兵の沖縄の女性に対する蔑視ではないか。減刑の根拠になった被告の真面目さを考えても、被害者にとっては屈辱的な暴力を「合意」と主張してゆずらない態度からも、その被告および同僚兵士たちの日常生活の実態がうかがえる。

 被告弁護士は、駐車場での性交もアメリカでは性風習として有り得る事、友人が車の後部座席に女性 と2人でいるのに気づきエンジンをかけ音楽とエアコンを入れたのも、他人に干渉しない性慣習であることと、性風俗の違いを強調したが、沖縄駐在4年の優秀な米兵の基地外での態度がこれだとしたら、押して知るべし、である。「若いバカな男なら、獲物獲得のために駐留していると勘違いしてしまうよ な」と沖縄に15年駐留したことのある元黒人米兵(33歳)は言う」(前出、タイム誌)。米兵の多くに今回の被告の行動パターンが容易に見られるのではないか。

 これは何を意味するのか。今回のこれほど明々白々の暴力行為を「合意」と言い張る裏には、これまでにも同じような暴力が起こってきたことが容易に推測出来る。被害者の泣き寝入りで隠蔽されている、 と言えるのではないか。性暴力を訴えにくい社会文化に乗じて、暴力が日常化していることが危惧さ れる。

W 日米地位協定の問題

 事件がたまたま、小泉首相がブッシュ大統領との初首脳会談のために訪米した日に起こったことから、 国内外メディアの注目を集め、日米関係に直結した。ブッシュ大統領は翌日には謝罪するという手際のよさだったが、米国が容疑者の身柄の引渡しを日米の司法制度の違いを理由に拒否したため、沖縄県議会をはじめ市町村議会で数多くの抗議決議が採択され、また、北谷町での女性集会をはじめ各地で抗議集会が相次ぐほど、米兵の絡む事件が政治的側面を持つことも残念ながら事実である。

 1995年の少女強姦事件後に、日米間協議で、日米地位協定の17条5項目のC「容疑が確定するまでは容疑者の身柄は米軍が拘束する」についての運用改善がなされ、殺人、強姦などの凶悪犯罪について は、身柄を起訴前に引き渡すことが合意されている。沖縄側からの強い要求は、1993年5月の強姦事件で、基地内に拘束されていた容疑者が民間機で米本国へ逃亡、4ケ月後に連れ戻されたが、被害者側 が事件を取り下げてしまった例など、被害者が不利益を受ける事件が何件も起こっていたからである。

 今回容疑者の起訴前の身柄引渡しがもたついた背景には、運用改善の合意があくまでも米国の優先の 「好意的考慮の合意」でしかなかったことと、日本の司法制度、刑事手続きに対する米国側の批判があっ た為だった。ただし、日本の刑事手続きについては日本弁護士会からも国際水準にすべきだと改善の提起がなされている点でもあるので、早急に見直しがなされるべきである。

 起訴前の身柄引渡しの問題以前に問題として存在するのが、米兵の持つ特権的地位−駐留米軍構成員 は基地外への自由行動が保障されている(地位協定5条2)点ではないだろうか。頻発する米兵の事故・ 事件に対して、沖縄市、北谷町などから米兵の深夜外出禁止を米軍側に求めている。1998年10月の女子高校生交通事故死、2000年7月の女子中学生就寝中の犯罪、2000年1月の強姦未遂事件も含め、犯罪の多くが深夜起こっている事実を考えると当然の要求だと思えるが、米軍側は、米兵を基地に閉じ込 めることは逆効果だと主張し、拒否している。地域を生活の場としている女性、子ども、市民の安全よ り、駐留兵士に特権が与えられているのだ。

X 被害者が安心して訴えられる環境をつくるには

1)被害者を孤立させない支援の輪を

 事件を知りREICO(強姦救援センター・沖縄)が最も危惧したのは、レイプ被害が成人女性の場合に往々にして起こる被害者バッシングであった。訴えたことを後悔しないように、孤立させてはならない、という思いで、事件翌日の6月30日に、「あなたは悪くない」というメッセージを「女性への性暴力犯罪防止を求める抗議声明」として発表した。共同記者会見した、「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」も、被害にあった女性の身心のケアについて具体的な施策を行政に求めた。「心に届け女 たちのネットワーク」は、アメリカのブッシュ大統領と沖縄総領事宛に抗議文書を送る行動をしている。

 被害者の女性本人からは、女性たちのメッセージには励まされたが、一部週刊誌などによるいわれのない中傷や職湯まで迫る取材に、プライバシーの侵害、人権侵害に苦しむ訴えの手紙がREICOに託さ れた。その手紙は、7月22日、沖縄県下の女性議員有志による記者会見の席でマスコミ各社に配布さ れたが、沖縄のマスコミは総じて人権に配慮した報道に努めていたが、それ以後さらに人権に配慮した取材の姿勢が紙面で確認できた。前大阪府知事・横山氏によるセクハラ事件の被害女性からの手紙や、ニューズウイーク・ジャパン誌のメリー・ホワイト氏からそれぞれに、被害女性の痛みや心情、また、 合意を容認する社会、米兵の行動の問題が指摘されるなど、メディアのプラスの役割を評価したい。

 披害者への支援体制とは、事件が起こってからではなくて、法曹界、警察、教育界、福祉関連も日頃からの連携が図られることが必要である。

2)量刑の改善

 これまでにもどれほどの性暴力被害者が事件を告訴した後、事件そのものに加えて、公判前も法廷で も屈辱的な扱いを体験してきたことか。被害者側がバッシングを受けるのはその社会の女性差別と、人権意識の低さからである。去年12月に刑法が改正されて、告訴期間6ケ月撤廃され、プライバシー保護の体制や、披害者証言に付き添いを認めたことなどは、被害者の人権保護に司法が動き出したことは評価できる。

 被害女性も「私が言ってきた事実が認められた。公正な判決だと思う。しかし、懲役2年8ケ月とい うのは婦女暴行という犯罪に照らすと非常に短い気がする。一般の人たちに軽い罪だと思ってほしくない」とコメントしている通りである。それにしても、日本は強姦事件の量刑があまりに軽い。アメリカ のタイム誌(’01.8/27号)、にも今回の事件に関連して、「もし有罪の場合、日本の刑務所に15年服役 せねばならない可能性もある。」と予想しているが、単にアメリカの感覚とせず、日本においても見直しが必要である。被告にとっても、日本での犯罪は合意の主張は退けられたが、2年8ケ月という軽い犯罪でしかない、ということになる。

3)被害者への身心のケア・カウンセリングの権利

 今回は、被害女性がカウンセラーにつながるのに、警察の働きがあった。これまでの女性警官や男性捜査官に対する「性暴力の実態および被害にあった女性を傷つけない捜査のあり方」の研修の成果として見ることができる。これは、各界においても取組まれる必要がある。

 判決では、「いわれない被害を受けた女性の精神的、肉体的苦痛は重大であるのに、被告人は、弁解 に終始して慰謝の措置を講じていないばかりか、犯行後の被害者の心情も深く傷つけている」と言明し た。このことからしてもまた強姦の被害者がカウンセリングを受けるのは当然の権利として、無料で受 けられる制度の確立が必要である。

4)最も重要なことは、被害者の意思の尊重であり人権の尊重である。

 最後に、最も大事なことは、被害者本人の意思が尊重されることであり、また、すべてに優先されなければならない。

 「今は元の生活に戻っている。警察や、検察、裁判所、女性団体や弁護士会、研究者、ジャーナリス トなど自分を支えてくれた関係者に感謝する。一日も早く事件のことを忘れたいのでそっとしておいてほしい」。この彼女の声を具体的に受け止めていきたい。